心理職の役割

リハビリテーション心理職の役割

リハビリテーション心理職会初代会長
故 阿部 順子 先生


 リハビリテーション領域における心理職の役割について、まず、2010年に神奈川リハビリテーション病院のリハ医である大橋正洋先生と心理科長の林恵子先生が書かれた「わが国における現状と課題」1)から抜粋して紹介する。


 日本リハビリテーション医学会の2006年の調査によると臨床心理担当者がいる施設は27.0%と少ないが、いない施設の86.0%が心理職の採用を希望していた。対象は脳血管障害、外傷性脳損傷、精神発達遅滞、自閉症のみならず慢性疼痛、循環器・呼吸器疾患、骨・関節疾患、悪性腫瘍と幅広かった。業務は臨床心理検査、心理療法、カウンセリング、認知リハビリテーションなどであった。また医学論文の分析から、心理職に期待されていることとして、不安、心理的ストレスなどの症状への対応のみならず、医療従事者と患者・医療従事者関の人間関係への調整・助言能力が期待されていることも明らかにされている。


 わが国のリハビリテーション医の第一人者である上田敏先生の「リハビリテーション医学の方法論の発展」2)によると第1期が整形外科的アプローチ、第2期が神経学的アプローチ、第3期が高次脳機能学的アプローチで、第4期が心理学的アプローチの重要性が増すとしている。たしかに20年前は脳血管障害などによる神経疾患への神経学的アプローチが花盛りであった。ところが、2001年に高次脳機能障害モデル事業が開始され、支援普及事業の進展とともに、高次脳機能への関心が高まって、多くのリハビリテーションスタッフが取り組むようになり、関連文献が多数出版されるようになった。まさにこのような時代の到来を背景に、2002年にリハビリテーション心理職会が設立され、高次脳機能障害への取り組みを中心課題として情報交換や研修会でのスキルアップが図られてきた。


 高次脳機能障害領域で心理職が活躍できたのは、神経心理学的な知識や経験は他職種に比べて乏しかったが、人間の行動にアプローチする知識と技術を有していたこと、なによりも「適応」を支援するという視点を明確にもっていたことによるのではないだろうか。「適応」は近年、脳科学で明らかにされてきた「社会脳」と関連が深い。すなわち社会環境の中で適切なふるまいができないことにより、社会生活に不適応を生じるのが高次脳機能障害の障害特性なのである。


 日本脳外傷友の会の東川悦子理事長は「臨床心理学」の雑誌の「当事者の声」3)の中で、「リハビリにしっかり取り組もうという意欲を持ち、自分の障害に気づく過程を支える心理職の役割は最も重要であると思う…」と述べている。


 国家資格化が現実になってきた今日、改めてリハビリテーション領域における心理職の役割を考える時、信頼関係を構築するスキル(当事者や家族がこの人は分かってくれる、自分の気持ちを理解してくれる、自分の味方だと思うなど)を有することが基本となることは言わずもがなである。その上で以下のような役割が考えられる。


①アセスメントとその説明
 特に高次脳機能障害の場合は神経心理学的なアセスメントをする必要がある。各種検査を実施し、数量的のみならず質的な把握や、検査過程で見られる行動特性なども把握する。それに加え、生活歴や価値観、受傷以前の適応状態、障害に対する本人の認識や困り感などを総合的に把握し、カンファレンスにおいてリハチームのメンバーに伝える。検査結果は本人や家族に対しても理解できるようにかみ砕いて説明する必要がある。また、学校に戻る場合には教育関係者に、福祉サービスを利用する場合は支援者に生活の場で生じる困難について症状との関連や対応方法をわかりやすく説明することも役割となる。


②認知リハビリテーション
 低下した認知機能を治療あるいは補償しようとする狭義のアプローチにとどまることなく、認知障害を伴う患者の認知面、感情面、行動面の回復を試み、社会的、職業的に可能な限り最大限に機能できるように援助する役割がある。


③面接
 障害を認識していく過程や、社会復帰した後に生じる様々な葛藤に対して不安やストレスを軽減するようなカウンセリングを行うことが必要になる。本人を対象にするだけではなく、家族のストレス軽減も心理職の役割のひとつである。


④問題解決
 認知障害や社会的行動障害によって生じる様々なトラブルに対して、環境調整や周囲への心理教育的かかわりによって、問題を解決するための助言をする必要がある。また障害をもった本人に対しては認知行動的なアプローチによって行動変容を試み、不適応な行を適応的な行動に変えていくようなアプローチをする。


 リハビリテーション心理職会を設立した当初は「高次脳機能障害」4)のリハの中で「心理士が行う認知リハ」が心理職の重要な役割として求められていた。今後は、リハビリテーションの領域に臨床心理学的な視点やアプローチ、発達心理学的な視点やコミュニティ心理学のアプローチなども援用して、上田先生が言うところの第4期心理学的アプローチの時代へとシフトしていくことを想定していかなければならないだろう。
 2006年の調査からもわかるように、心理職に多くの期待がされながらも、心理担当者の採用が進まなかったのは、経費の公的保障がないこと、国家資格がないことが大きな要因であった。心理職の国家資格化が決まったことで、今後より多くの期待が心理職に寄せられることを念頭に、我々心理職は時代に沿った役割を担っていくことを心したい。


1) 大橋正洋ほか(2010)リハビリテーションと臨床心理「わが国における現状と課題」,総合リハ,38(8),717-721.
2) 上田敏(1983)リハビリテーションを考える,青木書店.
3) 東川悦子(2015)福祉領域で働く心理職のスタンダード「当事者の声」,臨床心理学,15(5),579-582.
4) 阿部順子(2010)リハビリテーションと臨床心理「高次脳機能障害」,総合リハ,38(8),723-728.