高次脳機能障害の診断基準については、
国立障害者総合リハビリテーションセンターのサイト内
高次脳機能障害を理解するをご参照下さい。
高次脳機能障害について
京都文教大学(リハビリテーション心理職会名誉会員)
中島恵子
1.高次脳機能障害とは
認知(高次脳機能)とは、知覚、記憶、学習、思考、判断などの認知過程と行為の感情(情動)を含めた精神(心理)機能を総称する。病気(脳血管障害、脳症、脳炎など)や、事故(脳外傷)によって脳が損傷されたために、認知機能に障害が起きた状態を、高次脳機能障害という。
2.障害の臨床像
注意力や集中力の低下、古い記憶は保たれているのに新しいことが覚えられない、感情や行動の抑制が利かなくなる、よく知っている場所や道で迷う、言葉が出ない、ものによくぶつかる等の症状が現れ、周囲の状況に見合った適切な行動がとれなくなり、生活に支障をきたすようになる。
3.高次脳機能障害の種類とその症状
1)注意障害
病巣 | 右半球、広範囲の脳損傷 |
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生活での観察 | ぼんやりしていて自分の周りの人や事象に関心を示さない 気が散りやすい 簡単なミスが多い 二つ以上のことを同時にできない 他のことに関心を転換できない |
神経心理学的検査 | CAT(標準注意検査法) TMT(Trail Making Test) PASAT 7シリーズ 数唱 |
2)記憶障害
病巣 | 視床、前脳基底部、側頭葉内側面(海馬) |
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生活での観察 | 日時、場所、人の名前がおぼれられない(見当識) 一日のスケジュールがわからない |
神経心理学的検査 | WMS-R リバーミード行動記憶検査 三宅式記銘力検査 |
3)失語症
病巣 | 左半球、前頭葉下部、側頭葉、角回 |
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生活での観察 | 会話が困難 |
神経心理学的検査 | 標準失語症検査(SLTA) 老研版失語症鑑別診断検査 WAB(Western Aphasia Battery)失語症検査 |
4)失認(視覚失認、相貌失認、聴覚失認)
病巣 | 両側後頭葉 |
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生活での観察 | 物品、物品の絵、図形を提示されても呼称できない 対象をひとまとまりとして把握できない 対象そのものが何であるかわからない よく知っている人の顔がわからない 話、環境音が聞き取れない |
神経心理学的検査 | 標準高次視知覚検査 |
5)失行
病巣 | 左半球縁上回 |
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生活での観察 | 簡単な動作が口頭命令、模倣、物品の使用など、適切な状況下でうまくできない |
神経心理学的検査 | 標準高次動作性検査 |
観念失行
(系列行為の障害・マッチを擦って煙草に火をつける等)
構成失行
(空間的形態を構成できない)
着衣失行
(着衣の障害、左右、前後を間違える、うまく着れない等)
肢筋運動失行
(手、足に触れるものを離そうとしない等)
頬-顔面失行
(舌、唇の運動、嚥下動作、顔の表情を指示通りできない等)
6)地誌的障害
病巣 | 右(両側)側頭葉から後頭葉 |
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生活での観察 | よく知っている道で迷う 家の近くの写真を見せてもわからない |
神経心理学的検査 | 自宅の見取り図、近所の地図を見せてもどこかわからない |
7)半側空間無視
病巣 | 右半球頭頂葉 |
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生活での観察 | 食事の時、左側にある食事を残す 常に顎が右方向を向いている 歩行時に左側にある物にぶつかる |
神経心理学的検査 | BIT(Behavioural Inattention Test) 抹消検査 模写検査 |
8)半側身体失認
病巣 | 右半球 |
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生活での観察 | 左側の麻痺が存在していても、医師、療法士の質問に麻痺の存在を否定する 歩行できないにもかかわらず、歩けると言う 左側の身体の異物感や他人のものと思うことがある |
神経心理学的検査 | 日常生活での観察記録 |
9)遂行機能障害
病巣 | 前頭葉 |
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生活での観察 | 見通しの欠如 アイデアの欠如 計画性、効率性の欠如 |
神経心理学的検査 | BADS(Behavioural Assessment of Dysexecutive Syndorome) WCST(Wisconsin Card Sorting Test) DEX[遂行機能障害の質問票(BADS付録)] Tinkertoy Test |
10)行動と情緒の障害
病巣 | 破局反応:左半球 無関心:右半球 |
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生活での観察 | 依存的になる、年齢よりも幼くなる 周囲の状況に無関心になる 感情のコントロールがうまくいかない 欲求が抑えられない 状況に適した行動がとれない |
神経心理学的検査 | WOOD法(行動、情緒のチェック表) ABS適応行動尺度 |
4.高次脳機能障害へのアプローチ
1)注意障害
Attention Process Training、Attention Process Training Ⅱ
2)記憶障害
反復訓練、環境調整、外的代償法(記憶補助手帳使用訓練、電子手帳など)、内的記憶戦略法、手続き学習、手がかり漸減法、見当識訓練など
3)遂行機能障害
自己教示法、問題解決法、身体運動セット転換法
4)行動と情緒の障害
行動療法(模倣行動の訓練)
5)視覚認知・視空間認知障害
視知覚訓練、視覚探索訓練
6)半側空間無視
病態認識、言語的手がかり、指さし訓練
7)半側身体失認
実際の行為を通して確認させる
8)地誌的障害
視空間認知の訓練、リハーサル
9)病態認識
グループ療法 心理教育